冷えからの両膝の痛みは、たかだか45分の仮眠で一切消失。すごい、けどやっぱり胃は死んでいる。
とりあえずいらなかったものを梱包し、15分で支度を整え、フロントにドロップバッグの返送をお願いして出発。
きちんと寝られたらしい虫さんが、昨晩よりは元気そうで一安心。1時間ほど借金しつつ、リスタート。
かるくジェルを入れてきたが、うっかりドリンクをボトルに入れ損ねたので、数キロ先のコンビニに朝ご飯イン。
「 とりさん????? !!!!!!!」
「!?」
なんと、昨晩パンクで別れたとりさんと奇跡の再会を果たした。
ホテルから出たこのタイミングで、今から走ろうというここで。もうこの展開だけでつくづくドラマチックな600kmである。
とりあえず粉飴用ドリンク、麦茶、おにぎり(結局食べられなくて80kmくらいかけて消費した)を買い、ヨーグルト飲料を胃に入れる。
程なく夜が明けた。
ここからはとりさんも道中ご一緒してくださることになったので、ぜっとさん、私、虫さん、とりさんで安曇野のPCを目指してひた走る。そこまで行けばほぼ400kmなのだ。
ごく軽い登り基調で虫さんのペースが落ちる。やはり心臓の負荷なのか辛そうだ。と思ったら胃の具合も悪いらしい。
途中でぜっとさん・私と、虫さん・とりさんに分かれる時間があった。
ウダウダだらだらとした善知鳥峠は、行動食をボリボリし、たまにカロリーメイトを水で流し込みつつ走った。
ちゃんとしたものは食べられないが、そういうものをほんのカケラずつ咀嚼し続けることで、ハンガーノックを防ぐ。
善知鳥峠の頂上。ここからの下り&下り基調は、ひたすら借金を減らすべく進むしかない。
ぜっとさんや虫さんに眠気が出ているので、途中コンビニイン。虫さんが行き倒れ状態。
自分は眠くないが人らしいものが食べれないので、とりあえずウイダーinゼリーを飲んだ。
安曇野らしい景色が見えているが、日が出て気温が上がり、じわじわと暑い。
吐きそうだという虫さんのペースをうかがいつつ、最後に微妙な登り基調に苦しめられながらPC3のコンビニに滑り込む。
とりあえず暑さ対策に氷やら飲み物やら熱さまシートやらを入手。食べ物は多分食べていない、カロリーメイトを買ったかもしれない。
うーむ。へたりこむ虫さんが撮った写真のお二人の顔たるや。
・PC3~塩尻峠~旅のおわり
吐いて、ポジションを直して、虫さんが復調したので一安心。下り基調なのもあり、ガンガン借金を返済しながら進む。
認定よりもとにかく走り切りたいということ、今やめたらブルベを走れなくなってしまうかもしれないこと、そんなことを虫さんがぜっとさんに話していた。
さっきまで吐きそうで死にそうだった虫さんを見ていたので、元気が戻ったことに安心する。
グロスアベレージや気温や道の勾配を見ながらわくわくとゲンナリと安心と不安を高速で行ったり来たりしていた気がする。
ここは、フレッシュで私が人生初めてのパンクをした場所だ。もう松本市街まできた。
塩尻峠のふもとで、結構グロスアベレージが回復していたので、暑さに備えてたっぷりコンビニで対策して、日陰のない登りの道に挑む。ボトルに氷をガンガン入れて、ちょっとこぼした。
塩尻峠の虫さんはペースが極端に落ちていたらしい。あとあとぜっとさんやとりさんに言われたが、正直私はそこまで意識していなかった。
止まりながらでも、まだ元気そうだったから、それでいいかというぐらいだった。
今になってみれば、ペースが極端に上がらない時点でそもそも不調に浸食されているという話なのだが、「まあ暑いし登りだしな」という感覚だった。
昨年のフレッシュで大盛り上がりした焼肉セックスホテル(車で焼肉に行き、あえて飲酒をしてホテルに連れ込めるという年の差ホモCPホイホイスポット)
頂上まで、多分フレッシュより30分増しくらいだったはずだ。
塩尻峠を下り、諏訪湖湖畔で、下り基調や平坦なのに虫さんが離れはじめた。
様子を聞けば、お腹がすいてきたようだと。
この時点で借金はまた増え、ここから峠を含む道のりで、次のPCに間に合うかあやしくなってきた。とりさんに「間に合いますかね」と聞いてみるが、雲行があやしい。
ぜっとさんが近場にコンビニを見つけてくれ、時間がないなか急遽イン。
間に合いますかね、ともう一度ぜっとさんに聞いてみた。かなり頑張らないとあやしいということは分かった。
自分で計算して、ちょっといやいやこれはもう、という気持ちになった。が、走れるなら認定など別にどうでもいいので、ただ興津に帰りたいと、そう思った。
先行きを相談しつつ虫さんを見ると、座り込んだまま、何か食べようとするのに満足にできていないように見えた。
でも行こうとするのであれば、彼女が望むのであれば、進もう。もうやめようとは言えなくて、泣けてくる。
でも走り出してすぐ、彼女の限界はあまりにもわかりやすく目に見えた。ペダルがきちんと回せていなかった。平坦ですら、漕げていない。顔を上げていることができなくて、下を向いて上を向いて、すぐ下を向く。気持ちが悪いから、顔を上げているとえずきそうなのかと思った。
ぜっとさんが「前を見て」と声をかけている。かけているのだが。もうやめてくれと思った。
私の後ろを走るとりさんに、やっとのことで「あれはもう、危険じゃないですかね」としか言えなかった。とりさんが速度を上げ、虫さん、ぜっとさんに並び、制止の声をかける。
それでも尚進もうとする虫さんを止め、自転車から降ろして、高架下の日陰に避難した。
旅の終わりだった。
これまで頑張ってきた彼女がせめて、自分を褒めてあげられる結末になってほしくて、今回はいつも以上に「達成してほしい」という気持ちが強かった。そして、それが叶わなかったことに泣いた。
たくさんの言葉が浮かんだし、たくさんの虫さんの思いの丈を聞いたし、ぜっとさんやとりさんはそれぞれ、本当にこの場にいてくれてよかったと思えるたくさんの言葉をかけてくれていた。
それらについて、私からはあまり言えることがない。
このブルベにおける悲しみは本人のものだ。物語も本人のものだ。虫さんの悲しみは虫さんのものだ。だから私の悲しみも私のものだ。
この旅において、それぞれ確実に何かを得ている。465kmも走って何もなかったなんてことは1000%ない。共有できるものもあるけれど、ほとんどが個々のものだ。それでいいのだ。
そして、ほんとはそんな物語なんかより、一生懸命やった末の、「ただの完走」がほしい。許されるならば彼女と、という「達成」を求める、未熟者でいさせてほしい。とにかく今は。
◆
冷静にものが考えられるようになると、とにもかくにも興津に帰りたかった。ここから自宅に帰ろうという気持ちは全然湧いてこない。
とにかく、大好きな田中さんたちに会いたかったし、帰ってくる人たちにも会いたい。あと、本当にスタート時から感じているものすごく高いモチベーションで、健康ランドの風呂に帰りたい。
あの湯量に包まれたい。
確実にものすごく悲しい旅の終わりにぶん殴られたのに、本当に、もう本当に、あの健康ランドの温泉が最高の記憶として私の欲望をガンガン揺さぶってくる。
虫さんが健康ランドに帰りたいという気持ちがあってよかった。たとえば、完走して帰ってくる人たちが恨めしいから会えない、なんてカケラも思わない人で、心底よかった。
ぜっとさんもとりさんも、私たちの希望を聞いてくれたので、とりあえず近場でご飯食べて、帰路を調べることになった。最後の最後まで、頭が上がらない。
バーミヤン……。
ずっと食べたかった冷やし中華……。
料理というか、そういうしっかりした食事は昨日の昼以来。味がちゃんとして美味しかった。
ちなみに、このブログを書きながらだから言えるが、盛り付けが崩れていたことは、このときからずっと気になっている。
・楽しいDNF旅
リタイヤを決めた地は、茅野。
興津までは特急を二本乗り継いで三時間半ほどかけて一人5000円。
高い。
というわけで乗り捨てレンタカーで帰路につくことになった。この発想力、ぜっとさんすごすぎる。
あまりにも大型なバンなので、とりさんが慎重に運転してくれた。
自転車は畳まないでも4台乗るし、それでもまだ余裕がある。
ぜっとさん「せっかくだからコースをトレースしながら帰ろうか」
まだ走ってるたくさんの参加者の方を見ながら、「実質完走」なんてはしゃぎながら、ものすごく楽しく興津600の残りの道を走った。
富士川のアップダウンに差し掛かったとき「何が富士見峠を越えればいける、だよ」と本気で思った。でもいい旅の終わりでよかった。
最後の最後に思いっきり寝落ちたので、コースの終わりまでは見ることができなかったが、それでも駿河健康ランドに帰ってきた。
スタートでも会えた鈴木さんのお帰りとエンカウント!もちろん完走!
日焼けのイカす感じのもりとさん、完走!
虫さんに便乗しておねだりして、ブルベカードに田中さん、本多さん、マヤさんにいろいろコメントとかお褒めの言葉とかを書いてもらう。
それはもう浮かれた。めちゃくちゃうれしかった。
ゴールしていたもりとさんが「価値がある」と言ってくれたので、「メダルと認定を返上したら同じのを書いてもらえますよ!」と言ったが、さすがにそれは断られた。
宝物が増えたのだった。
こうして、素敵な車の旅を終えて、もう何よりも入りたかった健康ランドのお風呂につかって、幸せをかき集める。
皆でお疲れ様の晩御飯。田中さんとツーショット。
そして、カンパイ!!
マヤさんとお揃いのステーキ丼を食べて、とりさんと同じスコッチハイボールを飲んで、マヤさんが配りまくる日本酒のご相伴にあずかった。
なんで酒も飲めるし肉も食えるんだろう。自分の胃がよくわからない。
皆でワイワイして、楽しかった。
励みになる話をたくさん聞いた。先輩方は皆偉大で、あまりにも興津600がよすぎて、また参加したいなという気持ちになった。
24時を回ってから、もう一度お風呂。明日はレンタカーを生かすべく観光だ。
というわけで健全な時間に起きなくてはならないのに、とにかく楽しい風呂から出られない(結果、岩盤浴で寝落ちした)
虫さんと、興津600ってすごいな、クラシックって偉大だなという話をしていた。
そういえば今回、大好きなコーヒーを断ってカフェイン抜きをしてきたのに(オーバーナイトのブルベではいつもやっている)、カフェイン錠を一度も使わなかったことを思い出した。
女性用仮眠室は快適で、即熟睡できたが、知らないおばさんに「××さん?」と起こされ、「あ違った」と逃げられたビックリの深夜突撃は忘れられない。
とにかく、朝まで眠った。
次の日は自転車抜きの楽しい観光旅なのだが、興津600本編についてはひとまずここまで。