・PC2〜山伏トンネル
ここからは、淡々と登り基調。
どんどん暮れていく景色を眺めつつ、あれやこれやと雑談しながらひたすらに走る。
精進ブルーラインに合流する頃には、すでに真っ暗闇。volt1600×3人分が大活躍するような道の景色になっていた。
前回のブルベも今回のブルベも感じたが、日暮れの走行エリアがほぼ山道。
自分たちのペース配分を考えれば、過剰すぎるくらい明るいライトを持っていても、それが余るということはなかった。
殺されて捨てられてもわからないぐらい、夜のヒルクライムは暗い。
たまに斜度がガツンと上がるように感じる山道を、えっちらおっちら走っていくと……最後の一息となる登りの直前、野菜直売所のトイレスポットで本降りの雨となった。
第一の正念場である若彦トンネルまでは登りきったが、このとき振り出した雨が、確実に命を脅かすことになる。
長い長いトンネルを抜け、雨が降りしきる市街地をひた走る。ゆるやかな起伏とともに少しだけ交通量が増え、今度は富士吉田へ至る長〜い登り基調。
そして、真っ暗闇の河口湖湖畔へと辿り着いた。キューシートとガーミンが一致せず、雨は降りしきり、道に迷っている感覚に翻弄されながら、何とか目的の山中湖側の道志みちへと突入。
これが最後の登り、山伏トンネルに至る道だ。
4kmほどの登りだが、山中湖側はあまりきつくなく、あと少し、あと少しと念じている間に無事に頂上へ到達。
びしょびしょに降られてはいるものの、寒さを感じるような状態ではなかった。
このとき、までは……。
・死のダウンヒル〜PC3
冬用インナー+半袖ジャージ+指切りグローブ、ウィンドブレーカー+冬用ウィンドブレーカー
夏用ビブ+レッグウォーマー
こんな装備だった私。全身は、すでにぐっしょりと濡れている。
残りは下り基調だから頑張ろうと、道志みちのダウンヒルを開始して、すぐ。
寒い。
さむすぎる。
寒いというか、痛い。がんがん体温を奪われ、歯がガチガチといいはじめる。
ペダルに乗せた足が震え、ブレーキを握る手に力が入れない。車体ごと震動している気さえする。
シバリングがひどすぎて、すぐに呂律も回らなくなった。
クロ「待って、まって、このままだとやばい。まって寒すぎてしぬ」
私のへろへろな呂律に反して、2人は随分とまともな調子で受け答えしてくれた。励ましてもくれた。
だが、数kmすらとても耐えられず、逃れる方法がないとわかっていながら、「道の駅どうし」に立ち寄ってもらった。
コーンポタージュを飲み、あたたかいココアをカイロ替わりにポケットに入れるが、あたたかさなどみじんも感じない。
身動きすると、濡れた衣類がさらに皮膚に触れて、悲鳴を上げそうになる。
じぇんさん「とりあえず、何はともあれPCに行くしかないから、がんばろ!」
もちろん! わかってはいるのだが、どこにいても、どの体勢をとっても、冷たい、寒いとしか感じられず、「行く……いくけど」と歯切れの悪いことしか言えなくなった。
ここからは、励まされながら、それでも失神するかもしれないと思いつつ、決死でダウンヒルを続けた。
しりとりをしたり、声を掛けてくれたり、2人は本当に支えてくれた、けれども。
感覚的にはPCについたらタクシーを呼んででもリタイアをしないと、意識を失うんじゃないかという状態だった。
救われる術がひとつも見当たらなくて、殺してくれと思ったくらいである。
余裕がない状態なのに、大雨と寒さで下りでの巻き返しが図れない。微妙に眠気もきている気がする。
私は自転車に乗っているのすらやっとで、しかも一度止まらせてしまったために、クローズに間に合わないのではないかと予感し始めた。
そして、こわくなって時計を見るのをやめた。
起伏の登りが少しだけ救ってくれたことと、本当に死ぬかもしれない、くらいしか頭が働かなくなった頃、ようやく下りきったあたりで雨が一瞬止んだ。
ほんの少しだけ、走行ペースが回復する。
もうクローズには間に合わないだろうな。むしろ過ぎてしまっただろうな。どうやって謝ろうかな……そんなことが頭をよぎっていた、そのとき。
じぇんさん「あのさあ、実は……PCまで残り1kmくらいなんだけど。あと5分しかないんだわ」
五本指をこちらにかざしながら、振り返るじぇんさん。
じぇんさん「私が牽くから、行ける?」
クロ「!!」
虫さん「いける!」
クロ「行こう!!!」
このときのじぇんさんは、最高にかっこよかった。手嶋純太みたいだった。
もう無理、死ぬとしか思っていなかったけれど、このときばかりはスイッチが入った。
行ける、行く、絶対間に合わせる。とりあえず何か買う!
PC3、254.8km地点のサークルKサンクス。
それだけを考えて30kmをゆうに超える速度で走り抜け、レジへと飛び込んだ。
缶コーヒーだけ買ったそれぞれのレシートは、22:58と22:59。
PC3クローズの、1分前だった。
間に合ったものの、すでに死を覚悟していたクロ。この先2人とともに走るかどうか、決断のときだった。手袋と、貼るカイロを大小それぞれ10個ずつ買う。
生き返る方法はこれしかなかった。
全身に17個のカイロを貼り、再び濡れた服を着込む。
5分ほどすると、呂律が回るようになってきた。エスタロンモカもここで決めて、深夜走行に備える。
借金20分。ゴールへ向けての47kmを走り始めた。
・PC3~ゴール
じぇんさん「2人がもし、さっきの速度についてこれるんなら、下りはガンガン踏んで、私が鬼引きするよ」
虫さん「大丈夫、行ける。ついてくよ」
クロ「今の状態なら、走れると思う」
そんなわけで、夜間の安全を大切にしたうえで、とても250km走ったあととは思えない当社比TTで市街地を走りぬけることになった。
信号が多く、思ったよりもロスするが、巡航ペースはかなりいい。
再び雨が降りだし、身体は重たくなるが、走れないというほどではなかった。
むしろ、3人にともえらくハイになっていた。
「いけるいける!!絶対に間に合う!!!!!」
正直、楽しかった。
思ったより脚は生きていた。
そしてついにゴール地点のセブンイレブンに辿り着いたのは、クローズ15分前。
302kmのブルベをついに完走した。
もう本当に笑ってしまうくらいハイのまま、ゴール受付のジョナサンに向かう。
遅くまで申し訳ない……と思いつつも、R東京の皆さんにあたたかーく迎えていただいた。
雨の嘆きを伝え、申請し、初めての300kmのメダルを獲得!
感謝とともにスタッフの皆さんを見送って、私たちはご飯を食べながら始発を待つことにした。
・まとめ
トラブルが多すぎた
2人がいてくれて本当によかった
ジョナサンはとても寒かった
気付いたら過去の最長走行距離の210kmくらいを過ぎていて、よく分からないけれど、人を殺すのは300kmまでは距離じゃなくてイレギュラーなのだと知った。
今年度のブルベもこれで終わり。最後の一回がこの甲斐300でよかったと思う。
虫さん、じぇんさん、この2人とブルベに挑戦できたことは、恵まれているとしか言いようがない。
得意なことも、スタミナも、それぞれバラバラだけれど、ともに走ってくれて本当に本当にありがとう。来シーズンもお手柔らかによろしくお願いします。
今日もお疲れ様でした!(冬の雨はトラウマ)